【監査法人】来年度から四半期報告書が廃止!監査法人でリストラ計画!?
2024(令和5)年度から金融商品取引法上の四半期報告書が廃止され、取引所の四半期決算短信に一本化されます。
ええ!四半期レビューがなくなるってこと!?
厳密には第1・3四半期報告書が法定ではなくなり、第2四半期は半期報告書として開示されることになります。
この半期報告書は現在の四半期報告書と同等程度の開示書類になるとされています。
つまり、制度としての四半期レビューはなくなることになりますね。
施行日は2024(令和6)年4月1日です。
今回はこのような状況の中、監査法人の人員整理(リストラ)が行われるのではないかとTwitterで話題になっていましたので、この話題を取り上げたいと思います。
受験生の方から質問を受けました
管理人は事務所公式HPにて、公認会計士を目指す方のアドバイザーも無料で行っています。
先日、管理人に受験生の方から下記の質問を頂きました。
今現在は大手監査法人も含めて、採用は売り手市場との事ですが、今後、四半期決算廃止の影響から人員余剰になり、買い手市場になることも考えられるかと個人的に思ってしまいましたが、それでも売り手市場はしばらく続く見込みがあるのでしょうか?
受験生Yさん
既にYさんには管理人の見解を返信して納得頂きましたので、その内容を今回のブログでもご紹介したいと思います。
それでは管理人の見解を見ていきましょう!
どうぞ!
なんかMC風になってる…(笑)
結論!現段階ではどちらに転ぶか分からない
「現段階では分からない」って、これが結論なの!?
それを言っちゃおしまいよ~。
まあまあ、そう言わず…。
根拠もきちんと用意しているから順を追って見ていきましょう。
監査法人を取り巻く現在の就職市場は就活生が有利な売り手市場なのは皆さんご存知ですが、この記事を書いていく中で
この先売り手市場が続くと予想される要因を「プラス要因」、買い手市場に転じて就職氷河期となる要因を「マイナス要因」と定義しましょう。
それぞれ考えられる要因を挙げてみます。
プラス要因
まずはプラス要因からです。
① 四半期報告書が廃止になっても、四半期財務情報のレビューは行われるはず
四半期レビューが法定でなくなるといっても、会社は取引所の四半期決算短信は引き続き作成・開示します。
現在ほとんどの会社では決算短信を先に開示し、四半期報告書をその後の日付で開示しています。
(稀に決算短信も四半期報告書も同日付で開示する会社もあります)
現場の最前線で動いてきた管理人の所感としては、
会社(特に社長などのトップ層)は決算短信の方に大きな意義を持っており、短信数値を重視していることが熱量で感じ取れました。
対して四半期報告書は決算短信と同じようなものをわざわざ作るのか…といったスタンスです。
そして、監査法人が意見として表明する「四半期レビュー報告書」はこの四半期報告書の一部という位置づけです。
でも決算短信は監査法人・公認会計士の四半期レビューや監査の対象外だよね?
決算短信にもそんな文言が書いてあるし…。
それがどう関係してくるの?
そう!決算短信は四半期レビューや監査の対象外だけど、ほとんどすべての監査法人や公認会計士がサービスでレビューしています。
なぜなら、決算短信にはサマリー情報や事業等のリスク、B/S、P/Lなどの四半期報告書でも使う情報が載っているからです。
これは特に報酬は別途請求せずに、工数チャージだけしておいて監査報酬の決定交渉に使われる感じです。
また、会社もそうですが監査法人も短信と四半期報告書で数値が異なるというのは基本的に好みません。
決算短信で載せた数字は絶対に変えないという会社もあります。
もちろん、そうならないように監査法人がレビューするのですが、決算短信の開示前に財務情報のレビューは終えていなければなりません。
これが現在の決算短信と四半期レビュー・監査の関係です。
【ここで問題です】
もし、この状況で四半期報告書が廃止され、公認会計士・監査法人が何も財務情報を見なくなるとすればどうなるでしょうか?
決算短信は引き続き開示されますが、そこに載ってくるのは今まで公認会計士・監査法人がレビューしていた財務情報ばかり。
まして、決算短信はその会計年度の業績や財務情報が1番先に投資家に知られる存在という、IR情報として重要な役割を担っています。
そこで、両者(会社と監査法人)はこのように考えるはずです。
財務情報は間違えたくないし修正は大変だから、今までどおり監査法人に見てもらおう!
工数が減ると監査報酬が減ってしまうことにも繋がってしまうから、今までどおり四半期決算数値はレビューさせてもらおう!
それぞれの思惑は異なれど、結論は同じなので、四半期決算数値のレビュー(≠四半期レビュー)は今までどおり残ると予想されます。
ただし、四半期レビューが法定ではなくなるので、監査法人側での従来の作業(四半期レビュー計画の立案や四半期レビュー報告書、レビュー調書の作成や審査など)がなくなることになります。
実質工数が減ることは間違いないでしょう。
ですが、監査法人としては今までどおり監査工数を稼ぎたいという思惑がありますので、これらの調書は財務情報のレビュー用に「非調書」として作成しておき、工数を要したとして監査報酬値下げを何とか食い止めるようにもなると予想されます。
② 四半期報告書が廃止になっても、やることは膨大にある
四半期レビューがなくなったとしても、監査法人がやらなければならない業務はたくさんあります。
上場企業の公認会計士監査は財務諸表監査及び内部統制監査ですが、一時の粉飾決算や会計不正の影響を受けて、昨今では監査手続きが厳格化されています。
このような状況下で四半期レビューがなくなったとしても
年度監査の期中実証手続きを行ったり、内部統制評価を行ったりと、やることを期中を通して分散させていくだけになるとも考えられます。
四半期報告書の廃止も充分インパクトは大きいですが、
例えば、J-SOX法(内部統制報告制度)の廃止など明らかに影響を及ぼす制度が廃止されない限り、監査法人のやることはなくならないという見方もできます。
マネジメントや内部統制の重要性が高まっている現在においてJ-SOX法の廃止はまず考えられないですが、万が一廃止されたら大打撃間違いなしです。
全監査工数のうち、内部統制監査に占める工数の割合は1/3~1/2程度にもなります。
ちなみに、四半期の話とはズレるのですが、管理人がインチャージ時代に期中実証のためだけに期中往査をしていた年度があり、期中実証を他の日程でカバーして、往査日数を減らすことをしましたが、結果的に監査工数(チャージ時間)はほとんど変動なしでした。
やることを分散させたとしても結局は後工程でやらないといけないので、最終的な工数に与える影響はほとんどないという経験則があります。
③ 四半期レビューはほとんど効率化されていたため、廃止の影響は少ない
管理人が数年前まで所属していた大手監査法人も、現在非常勤として所属している監査法人でも、四半期レビューで作成する科目調書は不正リスクや特検リスク勘定科目くらいで、残りは全般分析を作成するくらいです。
他に何をやっているかですが、年度監査のために期中実証の前倒し作業をやっていることがほとんどです。
期中に取得・売却した固定資産や有価証券などの取引テストも四半期レビューのタイミングで行っています。
②で解説しましたとおり、年度監査でやらなければならない監査手続は年々増えている一方ですので、その分四半期レビューを効率的・簡素化しないと監査工数が膨れ上がってしまい、監査現場もクライアントも疲弊してしまいます。
クライアントと監査報酬の交渉をする際も、四半期レビューの工数を減らして年度監査の工数をその分増やすという見せ方はよくしていました(その方が説得感があり、ストーリー性のある交渉ができます)。
四半期レビューが廃止されても四半期決算数値や短信のレビューは残るので、そこまで監査工数に与える影響は大きくないとも考えられます。
マイナス要因
次にマイナス要因を見ていきましょう。
① 監査報酬の値下げ要求による監査法人の収益圧迫
この話をする前に少し過去を振り返ってみましょう。
今から13年ほど前の2010~2011年、大手監査法人は数百人規模の大量人員整理(リストラ)を行った過去があります。
大きな要因としては2008年に全世界を震撼させたリーマンショックの影響です。
リーマンブラザーズの経営破綻に伴って世界規模でその影響が波及。
米国市場が大混乱し、各国の経済に大きな打撃を与えました。
日本も例外ではありません。
クライアントの業績が急激に悪化した場合における監査現場や経理事務では、普段の通常業務の他に、検討すべき項目が段違いに増えます。
ざっと挙げるだけでも
は少なくとも検討して、クライアントと協議しなければならないでしょう。
しかし、当時は日経平均株価が6,000円台まで急落しているような状況です。
当然クライアントを始めとして経営状況は悪化しており、赤字を抱える企業も多く出ました。
そこでクライアントは監査法人に対して監査報酬の値下げ要求を行うようになります。
しかし、監査法人としては上記のように検討項目が増えて監査工数が増加しているので、逆に監査報酬を増やして欲しいと思っていますが、クライアントも会社の存亡をかけてリストラをせざるを得ないような引くに引けない状況です。
結果として監査法人が折れて、監査報酬の値下げを行う状況が日本各地に広まっていきました。
監査法人はもちろん非営利企業ではありません、営利を目的としています。
監査報酬の値下げは売上の減を意味しますから、大規模な監査報酬の値下げは監査法人の経営を圧迫させました。
また、これに追い打ちをかけたのが、2007年と2008年の大量合格世代の存在です。
こちらの記事でも触れていますが、監査法人のP/Lのうち、人件費が業務費用の7割を占めています。
大量入所者を含む職員の人件費がかかる一方で、売上高である監査報酬はどんどん値下げされていく…。
監査法人の経営は苦しくなり、リーマンショックから2年後の2010年にリストラ(希望退職の募集)が始まったという過去があります。
当時1人1人面談を行って希望退職に応ずるのか話を聞かれたという話も聞きました。
特に退職して欲しい人には退職勧奨もあったと思います。
現在とは全く違う状況だね。
話を現在に戻しましょう。
今は当時とは違い、会計不正や粉飾決算により監査手続が厳格化されて人手が不足しているような状態です。
監査報酬も増額できるようにパートナーがクライアントと交渉を続ける状況が常に続いています。
直近では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が蔓延した結果、「コロナショック」も発生し、経済状況も然りですが、リモートワークなど働き方も大きく変化せざるを得ませんでした。
四半期報告書の廃止がどれほど監査報酬の値下げに繋がるのかについては、今後の監査法人とクライアントとの交渉次第になりますが、一度監査報酬を値下げすると他のクライアントでも値下げに繋がることは過去の経験からして明らかです。
② 直近数年間の売り手市場によるスタッフの採用人数増加
これは根拠としては少し弱いですが、2010年、2011年度のリストラ時代を経た後は緩やかに持ち直して、監査法人の就職市場においては売り手市場が続いています。
監査の厳格化に伴ってやることは大量にあるため、どの監査法人でも人手は欲しいため積極的に採用しています。
また、人手が欲しい理由として監査の厳格化の他にもシニアスタッフ世代の退職が多いことも挙げられます。
以前から監査業界では有名ですが、インチャージを担うシニアスタッフ世代は監査チーム内の直接業務・間接業務の負荷が集中し、ブラックな働き方となります。
鬱や体調を崩す方が多いのは働きすぎやストレスによるものです。
かくいう管理人もその1人です。
このようなシニアスタッフ世代が退職する分の穴をスタッフの採用によって補っていますが、スタッフを使うにしても作業の仕方をレクチャーしたり、スタッフやクライアント、上司からの質問に対応しなければいけないので、リモート環境下で指導が難しい状況ではますます管理層は疲弊していきます。
もちろん、スタッフを採用するのは簡単なことではありませんしコストもかかりますが、新規職員を増やせば全部解決するわけではなく、次年度以降の採用活動に影響は出てきます。
どこかしらで売り手市場→買い手市場への転換点は必ず迎えることでしょう。
それが四半期レビューの廃止となるのかどうかはまだ分かりません。
③ 季節労働の比重が高まり、閑散期の遊休人材の増加
監査法人の特徴として、繁忙期におけるブラックな職場環境の他に、季節労働性が強いことも挙げられます。
監査法人の繁忙期は3月決算会社が多い影響で4月~6月となります。
GWはもちろんありません。
その他にも期ズレの会社や四半期レビューがありますので、その決算月ごとに忙しくなり、それ以外の月は閑散期と呼ばれます。
12月や8月は閑散期となるケースが多いですね。
基本的に閑散期にはアサインが空くことも多く、その際は残務整理や有給消化が推奨されますが、それも限界がありますよね。
有給も入所したばかりでは付与されておらず、付与されても10日程度です。
今回の四半期レビュー廃止が引き金となって監査法人の閑散期が増えることを考えると、
監査報酬の値下げ→監査工数削減のためにアサイン縮小→遊休スタッフが増加→人件費削減のためリストラ敢行という、負のパターンが出来上がる可能性も充分に考えられます。
とはいえ、繁忙期においては人手が欲しいことには変わりないので、そのときだけアサインできるような非常勤職員の方が今後使い勝手が良く、雇用形態として増えてくるかもしれません。
非常勤職員の時給が高い(5,000円~10,000円/時間)ことは有名は話ですが、経営面からすると毎月継続的に給与支給義務がある常勤職員を抱えるよりも断然人件費を抑えることができます。
スタッフとしてはやることが少なくなって閑散期が少なくなるので、喜ばしいことかもしれませんが、トップ層やマネジメント層はいかに収益を繋ぎ止めるか必死に考えていますので全く楽観的ではありません。
このように四半期報告書廃止は監査法人内でも見る立場によって全然見え方が違ってくるという面を秘めています。
まとめ
プラス要因とマイナス要因をそれぞれ3つずつ挙げましたが、いかがでしょうか。
CPA会計学院の国見先生は四半期報告書の廃止に伴う就職市場の影響について、次のようにツイートをされています。
管理人もこれには概ね同意の立場ですが、売り手市場が続く保証は残念ながらどこにもありません。
ところで、監査法人は一般的に不況に強い職種とされています。
しかし、2008年のリーマンショックから2年後の2010年、2011年に大手監査法人で大量リストラがあったように、監査法人は経済環境の影響を直接的に受けることは少ないですが、そのクライアントの経済状況から数年後に間接的に影響を受けることはあります。
ですので、管理人の見解としては、
現段階においては売り手市場のまま、買い手市場に転ずるかどうかは「監査報酬次第」だが、確実に1,2年後には答えが出る。
という立場です。
全てのカギは「監査報酬の交渉」、これに尽きることでしょう。
監査法人としては、
四半期レビューはこれまで効率化していてそこまで工数を割いていなかったから報酬値下げはできない。むしろ増額してくれ!
という意見でしょうし、クライアントとしては、
年4回あった決算のうち、第1・3四半期レビューはなくなるのだから監査報酬が安い方向に行くのは当然でしょ!
という意見になります。
これはどちらの意見も至極真っ当ですので、交渉は難航するでしょう。
上記でも解説しましたが、監査報酬の値下げの情報は経営者層ですぐに広まります。
四半期報告書の廃止を要因として監査報酬が引き下げられると、その余波は日本全国で広まりを見せることでしょう。
先程の国見先生のツイートも2022年4月のものですので、四半期報告書廃止が翌年度に迫った現在においては、監査法人内の採用環境も変化していると予想されます。
監査報酬の値下げによって、監査法人の収益が圧迫され始めて監査法人トップ層の経営判断の結論が出るのは恐らく1,2年後でしょう。
そのときに現状維持かリストラか決まると思われますので、四半期報告書廃止から1,2年後に結果が分かるというのはそのような趣旨です。
可能性の話ですが、監査報酬の値下げに関係なく、四半期報告書廃止初年度の採用環境は少し売り手市場が和らいで、採用枠を減らす動きが見られるかもしれません。
それならば、最初から採用枠を減らすという保守的な動きを見せるのも、特に慎重な監査法人においては予測できるからです。
ネットでもあらゆる憶測が飛び交っていますが、監査法人リクルートから採用人数について公表することは当然できません(不確実な未来を断定するような無責任な発言は立場上できない)ので、誰1人としてはっきりとした答えを持てないのだと思います。
勉強中にこのような話題が出て不安に思うこともあるかもしれませんが、公認会計士試験に合格すれば必ず道は開けます!
頑張ってください!
ここまでお読みいただきありがとうございました。
またお楽しみに!
独立会計士ブログのかわなべでした!
コメント
コメント一覧 (2件)
個人的な感想として、前回の監査法人の大リストラはリーマンショックの影響というよりJ-SOXバブルがはじけた結果、監査法人の収益悪化と人余りが発生した結果だと思います。
また、J-SOXのコンサルでいい加減なことをしていたという話が続発(コンサルしてたのに、本番になって「このままじゃ適正意見出せません」なんて話をよく耳にしました)した結果、クライアントからの信用失墜、監査報告書を発行する以外に価値を見出してもらえなくなり、さらに追い込まれるという流れかな。
その後も収益力はあまり改善しておらず法人に残っている同期に聞いても待遇は良くならんし、昇進の門も狭いままとのこと。私が退所した3年前のタイミングでも働き方改革の名目で実質的な年収減につながる報酬体系の見直しがされていました。
コスト(人件費)カットで業績が戻ってきたというのが実態と思います。
そして、監査報告書にしか価値を見出してもらってない状況で報告書の発行枚数が減るということは報酬減につながると思います。
パートナーの保身のための作業が増えているので人員削減はしにくいかもしれませんが、報酬が減るのであれば、待遇は悪化すると思います。
コメントありがとうございます。
仰るとおりですね。J-sox対応人員を多く集めたものの、その後人員余りが生じて大変になったようです。
私も在職時は働き方改革の名目で、残業代の単価の実質減や時間の減少(サービス残業の増加)など見直しの影響をもろに受けました。
昔はシニアスタッフで1,000万円と言われていましたが、今の体系では絶対に無理になりました。
間接業務や保身作業が増えているので報酬が減っているのであれば、回り回って待遇は悪くなる一方ですね。